ロンドン・ビジネス・スクール:ブレグジットから学ぶこと|事例紹介|人材育成研修・セミナーならグローバル・エデュケーション

INTERVIEW 事例紹介

ロンドン・ビジネス・スクール:ブレグジットから学ぶこと

ロンドン・ビジネス・スクール London Business School 様

海外ビジネススクール

ロンドン・ビジネス・スクールは、Financial Times等のランキングで常に上位にランクされるトップビジネススクールです。今回は、ロンドン・ビジネス・スクール(以降、LBS)のシニアクライアントディレクターであるMary Greene氏と、LBSのディレクター時代からのパートナーであり作家、ファシリテーターとしても活躍するAdam Kingl氏に当社代表の布留川がお話をお伺いしました。(このインタビューは2020年1月に行いました。)


ブレグジットから何を学ぶのか?

布留川:今回の対談では、ブレグジット (Brexit) の影響や、日本企業の人と組織の課題をどう見ているか?についてお伺いしたいと思います。イギリスではブレグジットがいよいよ起きますね。それによって様々な影響が出てくると予想されます。ブレグジットは個人、そして組織のリーダーシップ発揮にどのような影響を及ぼすと思いますか?また、ブレグジットの前後では、LBSでリーダーシップをどう教えるのか、内容は変わってくると思いますか? 

Mary:   「変革をリードする」という、LBSがもともと力を入れてきた分野については、ブレグジットを経験したことでより深い気づきを促せるようになると思っています。ブレグジットは、このような前例のない、劇的な変化が起こった時に、人々がどのように考え対応するのかを示す生のケーススタディになるでしょう。組織のアジリティをどう高めるのか、という点でも多くの示唆があると思います。未来を予測することは難しいですが、”expect the unexpected” (予測できないことが起こることを予期する)という世界に我々は生きていることを自覚すべきです。

Adam:   これから1,2年後には、ブレグジットに関わった政治家のリーダーシップについてのケーススタディが出てくると思います。現時点では、大局的な視点からの分析にもう少し時間が必要だと思いますが、本当に興味深い例が出てくると思います特に、デイビッド・キャメロンボリス・ジョンソンヴィンス・ケーブルに注目した、効果的/非効果的なリーダーシップと、そのコミュニケーションに関するケーススタディが出てくるのではないか、と考えています。誰が正しかったか、正しくなかったか、ではなく、それぞれの政治家が、ブレグジットという歴史的転換点をどう捉え、どのようなリーダーシップを発揮したか?という観点です。ケーススタディでは、民間企業のCEOのーダーシップを考察することが多いですが、今回は、政治家の効果的/非効果的なリーダーシップをどうビジネスに活かすか、という例になると思います。

例えば、EU残留派の人々は「デイビット・キャメロンが正しかった」、「私たちはEUに残るべきだった」と言います。しかし、デイビッド・キャメロンは十分なリーダーシップを発揮しなかったため、選挙に勝利することができませんでした。EU残留派にとって、彼は「正しい」主張をしていたにも関わらず、彼は自分の影響力を使って、伝えるべきメッセージを適切に伝えていなかったのです。同じEU残留派の中でも、「ボリス・ジョンソンの主張は間違っていたが、彼のメッセージはより明確であり、より説得力があり簡潔であり、その強いリーダーシップがあったからこそ勝利し」と言っている人もいます。繰り返しになってしまいますが、数年後にはよりブレグジットの影響を深く分析出来るようになっていると思います。

 

実行力に重きをおいたプログラム構成

布留川: 他のビジネススクールとの比較して、LBSはどのような特徴があるでしょうか?

Adam: LBSの特徴は実行力、インパクトに重きを置いていることだと思います。多くの場合、エグゼクティブ・エデュケーションに来るのは企業の変革を促すためです。ただビジネススクールで学ぶだけではなく、その後、どう組織内で変革を実行していくのか、その実行力を重視しています。アメリカとヨーロッパのビジネススクールの大きな違いは、ヨーロッパのビジネススクールの方が真の意味でグローバルということです。もちろん、アメリカのビジネススクールにも多様性はありますが、やはりアメリカ人が多いのが現実ではあります。

Mary: 実行力を高めるため、LBSでは教授とは別に学びの専門家としてのプログラムディレクターを置いています。どうしたら人がより深く学び、より現実社会にインパクトを与えられるのか、メソドロジーも含め、プログラム構築の際に議論しながら作っていくことで、プログラムにより現実味が出てきていると思います。目的を達成するために、どの専門分野のどの教授のどのプログラムを入れるべきか、どんな企業訪問をすべきか、それをクライアントのニーズを見極めながら、周囲を巻き込み作り上げていくのがプログラムディレクターです。

Adam: プログラムをグローバルスケールで展開できるのもLBSの特徴だと思っています。例えば、4つの大陸にまたがる2,000人が参加するプログラム、しかも、毎月新しい人が入ってくるような状態でプログラムをどう構築し、運営するのか、というのは具体的なノウハウが必要です。プログラムの大規模なグローバルロールアウトが出来る、という点は多くのクライアントから支持されている点だと思います。

 

Age is not stage、年齢は人生のステージとは関係なくなる

布留川:いま、日本企業では、年功序列で上がっていく給与と比較してパフォーマンスが上がらない社員の存在が組織的な課題になっています。そのような人が上のポジションにいると、下にいる中堅・若手社員にも悪影響を及ぼし、組織的な全体の生産性が下がってしまうからです。これは、終身雇用・年功序列が生み出す弊害だと思っています。イギリスはアメリカと比べると解雇規制が厳しいですが、日本ほどではないですよね。このような日本の現状についてどうお考えでしょうか?

 

Adam:  働かない中間管理職を解雇することは出来ないとしても、彼らを再配置することは可能だと考えています。例えばマネージャーとしての能力がなかったり、マネージャーとして新たに学び成長する意欲がないと思われる場合、入社当初の配置を見直し、チームではなく個人で貢献できる職務に置き換える、そして若くてグローバル志向が強くポテンシャルがある人材をマネージャーポジションに昇進させるといった具合です。若い社員でも部署や会社の舵を取ることは十分可能だからです。

Mary:  ロンドン・ビジネス・スクールの教授でもあり、日本でも大ヒットした書籍「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」の著者であるリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが素晴らしいことを言っています。Age is not stage年齢はステージではないということです。例えば、「私はある企業の部長です」と自己紹介した時、今までの場合は、その人の年齢が推測できていました。つまり、人生のどのステージにいるかによって、年齢が推測できていたわけです。しかし、人生100年時代においては、人生のステージと年齢はイコールではありません。若くても能力があれば、会社や組織を率いることはもちろん可能ですし、逆に、何歳になっても学び直し、変化し続けることが重要なのです。これは日本だけではなく、高齢化を迎える世界共通の課題と言えるでしょう。

布留川: まさに今の日本に必要な視点ですね。本日はお時間を頂き、ありがとうございました。

お話をお伺いしたのは

ロンドン・ビジネス・スクール London Business School

メアリー・グリーン Mary Greene 、アダム・キングル Adam Kingl 様

メアリー・グリーン Mary Greene
シニア・クライアント・ディレクター
クライアントとの関係構築の責任者。特にグローバルクライアントのプログラムのデザイン、運営、評価を行うチームを率いている。

アダム・キングル Adam Kingl
ロンドン・ビジネス・スクールに長年ディレクターとして勤めた後、現在は、作家、ファシリテーターとしても活躍。2020年2月に"Next Generation Leadership"を出版。