ハーバード・ビジネス・スクール:素の自分で信頼できる仲間を作る|事例紹介|人材育成研修・セミナーならグローバル・エデュケーション

INTERVIEW 事例紹介

ハーバード・ビジネス・スクール:素の自分で信頼できる仲間を作る

ハーバード・ビジネス・スクール 宗像佐尭 様

海外ビジネススクール

ハーバード・ビジネス・スクールのクライアント・デベロップメント(オーストラリア・日本)のダイレクターである宗像佐尭氏に当社代表の布留川がお話をお伺いしました。


ハーバード・ビジネス・スクールでは、その人の”素になる”

布留川:今、日本の大手企業ではエグゼクティブ・エデュケーションに対して注目度が高まっていますが、ハーバード・ビジネス・スクールのエグゼクティブ・エデュケーション(幹部教育)のコアになる部分というのは何でしょうか?

宗像:まず、会社の肩書や役職ではなく、その人の素になれるというのがポイントです。ハーバード・ビジネス・スクールは全寮制で、その寮の中で7~8人のリビンググループにアサインされて、そこで初めて出会った、違う国や違う産業から来ている方が一緒になって学びます。(※ リビンググループとは、同じプログラムに参加している参加者同士で、部屋を共有する制度。部屋自体は個室だが、参加者同士が共同で使うリビングルームのような部屋があり、授業前にそこでまずはケース討議を行う。その8人組をリビンググループと呼び、クラスでの授業前に、ケース討議やリーダーシップのディスカッションを行う。)会社の肩書きは通用せず、みんなが同じ条件を与えられた中でケースについてディスカッションする、というのが“素になれる”ポイントです。そこで自分のビジネス経験をもとに世界の同じレベルの人と議論することができます。

他校との違いに関して言うと、ケーススタディを中心に進められることも大きな特徴です。233名いるハーバード・ビジネス・スクールの教員が校内で認められる基準は極めてクリアで、ケース作成等を通じてリサーチをすることに加え、ケースメソッドを通じて教育をするという点が重要となります。その点からも、研究機関であると同時に教育機関でもあることが、当校の特色だと思います。そのケースを書いている本人が教えるのはまずハーバード・ビジネス・スクールだけ。ケーススタディがメインの大学ですから、そこは一つの大きなポイントですね。

布留川:ケースメソッドがやはりハーバード・ビジネス・スクールの特徴ということですね。宗像さん個人のご経験として、ケースメソッドというものは宗像さんを変えましたか?

宗像:私個人で考えるとやはり変わったでしょうね。分のビジネスの経験を用いて、あなたならどう判断するのかという、きわめて実践に近いところがおもしろいところだと思います。また、ケーススタディというのはある会社である判断をするときに自分はどうするかというものでもあるんですが、それを自分の人生に戻した時にどうなるかっていうのを考えることが大事なんですね。これを我々はテイクアウェイと呼んでいます。単に自分が社長だったら、事業部長だったら、のようなことではなくて、そのケースで起きた失敗部分や成功部分を自分の人生で起きていることに置き換えて、どんな違いを生み出せるか考える。これをケーススタディでやると得られるものは多いですね。

 

後悔を持ち帰るか、度胸を持ち帰るか

布留川:私もボストンのHR(人事)の3日間のプログラムに招待されて参加したことがあって、リビンググループの環境を経験しました。そのような多国籍という環境は日本人にとってはやはり緊張するものですか?

宗像:緊張される方は多いですね。ただ、英語のテストではありませんので、まずは発言することと論点を整理することが大事だと思っています。

以前、面白い日本人の方がいらっしゃいました。プログラムでは、日本人は彼ひとりだったのですが、英語があまり得意ではなくて、流暢ではないジャパニーズイングリッシュでした。しかし、結果から申し上げると、彼はそのクラスの最後のプレゼンテーターにみんなから選ばれて、120人の前でプレゼンをしました。それぐらいポピュラーだったんですよ。彼が何をしたかというと、まず英語を話すのは得意じゃないから、事前にケースを全部読んでそれぞれ2個ずつ論点を用意してきたそうです。そしてリビンググループでまず最初に、「俺は英語下手だ。でも俺が話すときは手をあげるから聞いてくれ」って話したそうです。(みんなは)「おお、言え言え言え」と。その積み重ねで、彼は自分で“伝える”という気持ちを持てたんですよね。それがみんなに受け入れられて、結果的にリビンググループのみんなが、「こいつがプレゼンした方がおもしろい」っていう風に教室の全員を説得してくれたそうです。実際にその2分間のプレゼンでは、みんな立ち上がって拍手して、涙を流していました。だから人間っていうのは伝える気持ちがあれば、英語力じゃないんだなと思います。彼は「後悔を持ち帰るか、度胸を持ち帰るか」って言ってましたね。確かにそうなんです。彼はそうやって度胸をもって発言をしたことによっていろんなネットワークを得て、自分が得られるものをいっぱい持って帰っていきましたから。

 

世界中の信頼できる仲間から、セカンドオピニオンをもらえる

布留川:エグゼクティブ・エデュケーションでの人脈作り、ネットワーキングというのは、その人脈を通して実際のビジネスに結びつくという意味合いと、もうひとつは、ビジネスには関係なく、そういう世界のすごい人たちから受ける個人的な影響っていう、大きく分けて2つあるような気がします。そのあたりはどう思いますか?

宗像:そう思いますね。エグゼクティブ・エデュケーションはMBAと違って教授からの採点は一切ないですから、みんな遠慮せず素になって、物事に対しての意見の相違については徹底的に議論します。そうやって自分自身に戻って激論を交わした仲間というのはやはり非常に貴重なネットワークだと思いますね。

布留川:そういう厳しいところを抜けてきたような人たちとのグローバルな友好関係が、人生において非常に大事だということですよね。宗像さんにもそういう方はいらっしゃいますか?

宗像:いますね。私はパーソナルボードと呼んでいますが、ビジネスや人生の大きな転機の時に、なかなか自分の周りに相談できないけども、ハーバード・ビジネス・スクールで一緒に学んだ仲間にこの判断についてどう思うか?というセカンドオピニオンをもらえる、そういう人は本当にありがたいです。

 

①変化をつくる人間 ②変化を見ている人間 ③変化についていけない人間

布留川:宗像さんは多くの日本の経営陣や人事の方々と議論されてきていると思いますが、日本の企業組織に感じる課題や傾向などはありますか?

宗像:日本だけでなく世界の企業に共通していることかもしれないですが、いかに素早く、社会や業界の変化に対して対応していくのか、ということが大きな課題だと思っています。ちょうど我々の学長であるニティン・ノーリア(Nitin Nohria)が言っていたのですが、会社の人間には3つの種類があって、それは、①変化をつくる人間、②変化を見ている人間、そして、③変化についていけない人間だと。我々はやはり変化を仕掛ける人材を育成していきたいと思っています。常に我々自身もプログラムの内容を含めて変わっていかなきゃいけないですし、ビジネススクールとして常に変革しなきゃいけない。我々のプログラムも、同じ題名でも毎年中身は変わっていっています。

また、私は今、日本に加えて、オーストラリア、ニュージーランド、韓国を担当しているのですが、オーストラリアでは幹部教育のオーダーメイド化が進んでいます。お客様の方から非常に具体的に「今後、こういうビジネスを展開していくから、それを担うこの人にはこういう風に変わってほしい。この力を伸ばしてほしい」という風に具体的な課題意識を持って来られる方が多い。これは今後、より顕著になっていくと思いますね。

布留川:なるほど。個人個人の専門性を高めていってそのタレントたちが会社を経営していくということですね。日本企業のいろんな部署を経験しながら、いわゆるジェネラリストとして上がっていくっていう考え方は少し時流にあってないということでしょうか?

宗像:時流に合っていないことはないと思います。ただ、その会社がどんなビジネスモデルを選ぶか、ということに関連しています。今後、クロスボーダーM&Aなども増えてくると、おそらくジェネラリストもスペシャリストも両方求められてきます。海外の会社をM&Aをした時に、日本的な発想で、私たちが株主だから買収先が言うこと聞いてくれるだろう、というのは全く通用しない話です。リビンググループでの自分の素になって議論した経験というのは、そういう時にとても生きてくると思いますね。実際、こういうプログラムに参加してトレーニングをする会社も増えてきていますね。

布留川:なるほど。今日は貴重なお話、ありがとうございました。

お話をお伺いしたのは

ハーバード・ビジネス・スクール クライアント・デベロップメント(オーストラリア・日本)ダイレクター

宗像佐尭 様

兵庫県神戸市生まれ、1992年に三菱商事に入社後、国内外においてプラント、インフラ事業に携った他、海外における企業買収にも関わり、2019年より現職。