7月21日、第132回G研 『ハーバード ビジネススクールは何故トップを走り続けられるのか?』
を開催した。
今回はハーバードビジネススクール(HBS)から
エグゼクティブ・エデュケーション ディレクターのPhilippe Labrousse氏、
日本リサーチ・センター長の佐藤信雄氏、
そして導入事例として日本を代表する飲料水メーカーの研修ご担当者様に登壇いただいた。
冒頭、私から「エグゼクティブ・エデュケーション」が何故今注目されているのか、
またその効果的な活用方法について主に以下4点をご紹介した。
・ エグゼクティブ・マネージャー育成の種類
・ 人選と人材プール
・ 人選後の準備
・ エグゼクティブ・エデュケーション参加に必要な事前研修
私自身、ボストン本校での3日間の人事向けのコースを受講した経験がある。たった3日間であっても多国籍異業種のエグゼクティブとのケースメソッドの体験を通して、なぜ日本企業から派遣されるエグゼクティブがコースに積極的に参加できないのかがよく理解できた。
まとめると以下の3点が挙げられる。
1 英語力が不十分だとケースの予習が十分にできない。1日3ケースでありそれ以外に参考図書まで読むというのもある。ネイティブでも厳しい量である。1日3ケースをストレスなく読むのに十分な英語力はどれくらいかというとTOEICでは最低900というところだろう。
2 多国籍英語が飛び交い普段から慣れていない日本人には、瞬間的にアメリカ・インド・中国・ヨーロッパ・中東英語などの聞き取りにくい英語にスイッチ切り替えができない。
3 何か発言するとすぐに反論や意見が浴びせかけられる。これは日本人的「空気を読みながら意見を言う」 という文化に浸ってきた我々には慣れるまで時間がかかる。
ディベートを小学校から学んでたり、意見を言わない人は能力がないという教育をされている人たちのマインドセットとスキルははケースメソッドと相性がいいが、日本人はほぼ真逆である。
ということで参加してからの課題はあるのだが、国内で活躍し魅力的な幹部をこのプログラムに送り込むことは「良い投資なのであろうか?」という疑問が日本企業の中にある。
できれば上記3点の課題をなくしてからの参加に越したことはないが、そんなことを言っていると大手企業でも10人派遣したらもう候補者がいないということになるのが悩ましいところである(もちろん事前対策コースはある)。
私はエグゼクティブプログラム経験者数十名に帰国後インタビューしてきているが、その感触は投資としては成功していると考えている。なぜなら、プログラムを通して、いくら本を読んでもわからなかった「リーダーの本質」「自分は何者なのか」「ダイバーシティとイノベーションの重要さ」など経営者やマネージャーとしての基本がアップデートされ腹落ちする経験をしてきたと語る人がほとんどだからである。
エグゼクティブプログラムに派遣することは目的ではなく、グローバルリーダー育成の手段の一つでしかないのであるが、もし皆さんの会社に派遣準備ができている人材が枯渇しているとしたら、すなわちグローバルビジネス成功への黄信号がというサインかもしれない。
某メーカ―の事業部長曰く
「選抜されたときは気が遠くなるほどいやだったが、結果として人生で最高の経験だった!もしこの経験なしで現法社長をやっていたらとんでもなく部下に迷惑をかけ自分もつぶれていたかもしれない。。」
続いて佐藤氏とPhilippe から、「HBSが重視していること」、
「エグゼクティブ・エデュケーションに次世代リーダーを派遣する価値」
についてお話いただいた。
ビジネスにおいて、「確実」ということはありえないし、決まった正解もないことが大半である。
リーダーはVUCAワールド(Volatility,Uncertainty,Complexity,Ambiguityの略:ビジネスの世界では、企業を取り巻く市場環境が不安定で不確実、かつ複雑で曖昧模糊な混沌とした状況) の中で物事を常に判断し、決断しなければならない。
HBSのエグゼクティブ・エデュケーションでは、そう言った状況の中でリーダーがどのようにストラテジーを実行するのか?最新のケースにふんだんに触れ、各国の参加者とのディスカッションを通じて学び合い、臨機応変な人材を育成することを重視している。
また、佐藤氏によると日本人が抱える課題の傾向としては大きく2点あるという。
一つは、最初に自分が発言した意見を変えることに抵抗があることだ。自分の信用を懸念し、本当は意見を変える必要がある局面で撤回ができない傾向がある。
もう一つは、経営者が陥りがちな一つのある分野には精通しているが、他の分野に関する知見が足らず、分野ごとの関わりを統合できないことである。
当然、経営者であればたとえ浅くとも全ての分野で議論を交わせる能力が求められてくる。
尚、カスタマイズプログラムでは、これらの課題に対して深くアプローチすることができ、自分の意見を自信を持って撤回し、各分野の関連性を把握、統合し自己の中に判断基準を作ることが可能になる。ここ数年日本企業からの参加も増加傾向にある。
そして今回は、実際にHBSのAMPプログラムに自社のリーダーを派遣されたA社のご担当者様にもご登壇いただいた。
AMPへの参加を通じ、
1) Cooperate-協力
2) Society-社会にいかに貢献するか
3) Family-仕事と自分個人の生活をどう調和させるか
が最も伝えたかったことではないだろうかとのことだ。
日本人は1)のCooperateに偏りがちであることに気づかれたと同時に、
「英語とファイナンスはグローバル市場で活躍する上での入場券である」 とおっしゃっていた点が印象的である。
また、派遣にあたって社内でも大きな変化があったようだ。
10名の社員を選び、前年のHBSのケースを取り寄せ、約40のケースサマリーを作成、ブリーフィングを行ったというから驚きだ。
自社のリーダーが社員を巻き込んでこのプロジェクトに臨んだことで明らかに組織に大きなインパクトを与え、自社も世界で戦っていけると再認識されていた。
ダイバーシティの中で各国の価値観や個人の主張から新たな知を得て、自社のストラテジーに活かす思考パターンを身につけられる最高の教育がHBSにはあるということに、改めて多くの日本企業の次世代リーダーにご経験いただきたいと感じる。
同時に、何度聞いても大きな学びがあるのが、さすが世界の最先端を行くHBSの魅力である。